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佐太郎の小説、新シリーズ第5弾。


by tsado15

翔太・暗中模索(その5)

               ・・・・・・・・★7・・・・・・・・
成田のホテルの一室。
「香織、頭の調子はどうだ?」
「まだ少しボゥーとするけど、一晩、眠れば大丈夫よ」

カーテンを開けると、夜の帳が降りた中、飛行機の発着の様子が遠望される。香織の腰に手をやって、しばらく眺め入る。胸が熱くなる。
「香織、俺、もう帰るからな。しばらく、会えないな。アメリカで思いっきり夢を追いかけろよ」
「翔太、有難う。翔太も、気持ちの迷い、早く振り切って、写真に戻れるといいね」
向きを変えてじっと見つめあう翔太と香織。今までの長い付き合いの凝縮した思いが突き上げてくる。瞳の奥が潤んでくる。つらい感情を振り払うようにひしと抱き合い、長い長いキス。
そっと唇を離す。
「香織、パスポート、航空券、現金など必要なものは枕元のバッグの中に入っている」
「わかった」
「明日の朝のモーニング・コールも頼んでおいた」
「わかった」

「小林は死んだの?」
「俺にもよくわからない。マユミは死んだと言っている。後始末は俺とマユミでつける。もう小林のことは忘れろ。未来のこと、アメリカでのことだけを考えろ」
「わかった」
「熱いシャワーに入って、ぐっすりお休み。じゃあな」
翔太が部屋から出ていくと、こらえていた涙が溢れ出す。香織、声を上げて号泣。


部屋の中は香織のいた頃と同じく、綺麗になったわ。小林が生きていたときは、ロックをガンガン流していたけれど、今はクラシックのモーツァルトよ。心落ち着くわ。
違っているのは、ベッドに裸の小林が転がっていることだけ。
でも、気になるの。小林が突然動き出すんじゃないかと。こういうの、犯罪者心理というのかしら。あたしも、まだまだよね。
生きているのか、何を考えているのか、探ろうとして、小林の目を覗いたの。瞳が濁っていたわ。もう何も見ていないのね。首筋に手をやっても温かみが伝わってこない。死後硬直が始まり出したようね。死斑も出てきているわ。
小林、本当にお陀仏になったんだ。ざまあみろってんだ。完全な死体よね。自分で殺しておいて、遺体なんて言葉、そらぞらしくて、使えないわよね。殺人者には、死者の尊厳も糞もないのよ。
チャイムが鳴ったわ。翔太が戻ってきたみたい。

「香織、どうだった?」
「思ったより意識ははっきりしていた。朝まで眠れば大丈夫だろう」
「小林の死体。もう死後硬直が始まってるわ」
「俺、生きている人間には結構強いと思うけど、死んだ人間はからっきし駄目なんだ。身体はでかいけど、心は繊細なんだ」
「この死体の処理、私達でやるしかないわよね。それを、香織の新しい人生に向けてのお祝いの贈り物にしよう。翔太はどう? 厭なら私一人でやるわ」
「嫌なことなどないさ。香織を傷つけた謝罪の意味も込めて、喜んで手伝うよ。でも、俺、一人で死体と向き合うなんてこと、とてもできそうにない。あんまり役に立たないと思う。ごめんな、意気地なしで」
「まかしとけってんだ。あたし一人ではできないようなことだけ、手伝ってもらうようにするから」
「わかった。俺にできることなら、何でも手伝う。指示してくれ」
「でも、ここで死体を処理するのは危険すぎるわ。持ち主の爺さんもいつ戻ってくるかもわからないし、小林の仲間が来ないとも限らない。まずは、千葉の鴨川の山中にある、家具職人の元彼と一緒に借りていたアトリエ兼家具工房に死体を移すわ。そこで死体をバラバラにして捨てようと思うんだ。家具製作の工具一式が揃っているし。山の中の一軒家だからどんなに音を立てても構わないし。海も近いから死体を破棄する場所にも困らないわ」
「元彼はどうしたんだ?」
「私が重すぎるんだって。大好きだったのにい。他の女と私から逃げて、二度と戻ってこないの。福井の田舎で結婚しちゃったそうよ。俺のものは全部、処分してくれと友達を通して連絡があったわ。あたし、棄てられちゃったみたいなの。だから、今度は私が男を棄てる番。小林をじっくり楽しんで棄ててやらなくちゃ。男に対する復讐よ」
「マユミ、おまえって本当に強くて怖い女だなあ」
「翔太には、弱くて、すっごく優しいでしょ」
「・・・・・」
「ねえ、ねえ、翔太、あたしって、重すぎる?」
「ウ~ン、そういう傾向、ないでもないな」
「何よ。その奥歯にものの挟まったような言い方。翔太と私は死体遺棄の共犯になるのよ。特別の関係になるんだぞ」
「そうだよな」
「だから、近場に良い男がいなくて、あたしがどうしてもセックスがやりたくて気が狂いそうになったときくらい、駆けつけて協力するんだぞ」
「わかったよ。確かに少し重いかも・・・」

「一番、危険なのは、工房に死体を運ぶまでの道中よね。腐敗が始まる前に運んでしまいたいわ。安全運転で、ポリスに捕まらないように慎重に行ってね」
「まかしとけ。低温冷凍車のレンタカー、朝一番で借りてくる。俺、食肉処理工場でバイトやったとき、何度も借りているから、勝手、知っているんだ。それで、腐敗の心配は全くなくなるな」
「さすが。翔太。じゃあ、冷凍車が来るまでに、あたし、部屋をもう一度綺麗に掃除して、ここに小林のいた痕跡をすべて消しておく。それから、車まで運び出せるよう、大型の段ボール、もらってきて、ブツを詰め込んでおくわ」
「少し重いけど、それさえ眼をつぶれば、頼りになるんだよな・・・」
「何か、言った?」
「いや、別に」



何よ、翔太ったら、曲をショパンの「別れの曲」にかえて、深刻な顔して、頬杖をついているの。これではいけないと思ったわ。小林なんかのことで、気を落とすことなんかないんだわ。あたし、腹が立ったから、山口百恵の「いい日旅立ち」に変えてやったの。翔太、百恵ちゃんファンだったってこと、香織から聞いていたの。
「翔太、深刻ぶんなよ。私達、今日を境に、新しい未来を求めて、旅立たなければならないんだぜ。暗くならずにパッと行こうぜ、パッと」
「そうだよな。イジイジしてちゃ、いけないよな」
「朝までもう何もやることないわよね。翔太、お願いがあるの」
「なんだ?」
「今、あたし、すっごく、ハイの状態にあるの。セックスの欲求が最高レベルに高まっているみたい。ここであたしを抱いてくれない?」
軽いノリで言ったつもりだったんだけれども、あたしの表情に鬼気迫るものがあったと思う。でも欲望は欲望よね。あたしの性格が、異常に偏執的に思われても仕方がないと思ったわ。とにかく、あたし、そのとき、翔太に抱かれたかったの。いや、犯されたかったの。あたしって、燃え始めたら我慢できない女なの。

小林を殺した罪悪感などこれっぽっちないと強がっていたのに、そうでもなかったみたい。正確に言うと罪悪感ではないけど、あたしの心の深層に眠っている、おぞましいどす黒い何かに苛まれていたみたい。
翔太に激しく突き抜かれ、滅茶苦茶に掻きまわされることで、あたしの心、わずかでも癒せたらと思ったのかもしれないわ。あたしって、性格が一筋縄じゃないの。

「死体の隣りで、セックスするんか。俺、できないよ」
「何でも手伝うって、言ったじゃない。最初の指示よ」
「けどな。気持ちが固まってしまっているんだ。無理だよ」
「翔太! やれば、できる! やってみる前から、できないなんて考えるな!」
「そうなんだよな」

「セックスしないと、テンションが下がって、この後の死体処理作業の能率が眼に見えて落ちてしまうわ。それだけは確実。翔太、あたしに入れて。こねくり回してよ。お願い!」
「できれば、やるよ。でも、恐怖からチンポコも縮こまっているんよ。足もつっているみたいだし」
「まかしとけって。あたし、大きくしてみせるわ」

確信なんかないのに大きく出ちゃった。翔太のような子には自信をみせないとね。あたし、まず足のマッサージを丹念に丹念にしたわ。それから、翔太の股間に顔を埋めて、丁寧に丁寧に舌を使ったの。チンポコはもちろんのこと、陰嚢から股の付け根、肛門の周りまで30分もかけて舐め続けたかな。あたしの心が通じたのかしら。次第に翔太の緊張がほぐれてきているのがわかったわ。

「翔太、大きくなってきたわよ」
「俺、なんだか自信が沸いてきた」

「翔太、もう十分に硬いわよ」
「不思議なものだ。チンポコ、大きくなったら、気持ちまでゆとりが出てきたよ。マユミ、入れるぞ!」
「待ってたぞ。翔太、やっぱり、お前、やればできる男なのよ。好き。好き。大好き!」

「こんなチャンス、めったにないわ。こんな素敵な環境で、セックスできるなんて、あたしって、最高の幸せ者だわ」
「ったく。芸術家の考えることって、俺には理解できないな」

極限状況でのセックスというのかな。とにかく、あたし、燃えに燃えたわ。
翔太も、ふっきれたみたい。気が狂ったように、あたしを激しく攻め続けてきたの。
極真の試合でもしてるようだった。殺気を感じたわ。気合を感じたわ
「いいっ。いいっ。いいわっ! 凄いっ! 凄いっ! 凄いっ! 殺してえ! 殺してえ!」
「ウォッ、ウォッ、ウォー。キェッ、キェッ、キェー。出たぁ!」
あたし、吼え続けていたみたい。翔太も大声を出して、射精したわ。
「何よ、翔太。一人だけ先にいくなんて、ひどいわ」
と、言いつつも、中に出された後、あたし、ゥワーン、ゥワーン、泣きわめいていたみたい。何が何だかわからなかったわ。感動したのよね、きっと。

「あたし、知らず知らずのうちに、心がかじかんでいたみたい。でも、翔太のチンポコに気合を入れられて、解き放たれたわ。裂帛の気合っていうのかな。有難う、翔太」
「マユミの中で無心に動かしながら、暗黒の世界を彷徨い続けていた。でも、放射と同時に一筋の閃光が走ったんだ。目の前が開けたような。精神の飛躍を感じとったような。やればできると身体が覚えこんだようだ。サンキュー、マユミ」
「そうさ。翔太は、能力があるのよ。自信を持ちさえすれば、できるのよ」
「マユミ、お前って、人を乗せるのがうまいな」
「翔太、それって、二つの意味、かけてる?」
「そんなわけないだろ。バ~カ」

後ろから入れられたまま、お腹を持たれ持ち上げられてグルグル振り回されたわ。首にぶら下がってままブランコみたいに出し入れもしたわ。自由な精神を得た素っ裸の二人。朝まで、もう乱痴気騒ぎよ。
「マユミ、最高だった。人生で忘れられないセックスの一つになった」
「あたしも、極上のセックスを味わったわ。ここを出発点にして、何かできそうな気がしてきているの」

「俺、乗り超えられそうもない現実の壁もにぶちあたったとき、死体の横でセックスしたことを思い出すよ」
「俺。プレッシャーに弱く、持っている力が出し切れなかったんだ。このセックスで、克服のヒントをもらったような気がする」
「極真でも実力があるのに、試合になると弱かった。香織の兄貴と正反対だった」
壁にかけた時計が午前4時半をさしていたわ。
by tsado15 | 2013-06-22 17:37 | 翔太・暗中模索・